1.噛む(食べる)機能の発達赤ちゃんは生まれた直後からお乳を吸います。これは最初は反射運動として行われるので、練習しないでも直ぐ飲めます。しかし、咀嚼はそうはいきません。離乳期に離乳食を体験する事によって、必ず一定の決まった順序で発達していくものなのです。この事は単に食べる事だけでなく、顔の表情や言葉の発達とも深い関係があります。発達の順序は、口唇を閉してごくんと飲み込む(唇食べ)→舌を上下に動かして舌でつぶして食べる(舌食べ)→舌を上下に動かして歯ぐきでつぷして食べる(歯ぐき食べ)→乳臼歯で 噛んで食べる(乳歯食べ)となって順々に発達して行くのです。
ダウン症児の場合歯の萌出が遅れる事は以前に書いた通りです。この事が離乳が遅れる原因となり、上手に食べる事ができない原因となっているようです。
人間の場合、動物でもそうなのですが、ある機能を獲得する臨界期というものがあります。その時期を過ぎてしまうと上手く次のステップに移行する事ができません。上手く噛めない、丸呑みをしてしまうといった事も、そんなところに原因があるのかも知れません。それでは順をおってその発達について見ていきましょう。
1.授乳期
2.くちびる食べ 授乳初期
3.舌食べ 授乳中期
4.歯ぐき食べ・・・・・離乳後期
5.歯食べ・・・・・授乳完了から一歳前半
6.咀嚼の練習(乳歯食べ)・・・・・一歳半〜三歳
7.幼児期における摂食機能の発達
1.授乳期
挿し絵は、医師薬出版(株)「食べる機能の障害」より転載
出生後数カ月間、乳児の栄養のほとんどすべては、乳汁にたよります。母乳や哺乳瓶の乳首から乳汁を摂取するための機能(吸啜)はどのようになされているか考えてみましょう。母乳と人工乳では若下の違いがありますが、乳首を口の中のかなり奥まで取り込んだ舌は、中央を陥没させて、乳首を上顎に押し付け、舌で乳首をしごくように前後に動かして咽頭部(のどのほう)へ乳汁を流し込みます。この動きに合うように上顎の形も乳首が舌の動きでずれないよう中央が陥没しており、吸啜機能が容易に発揮されやすい形になっています。授乳期の赤ちゃんの口唇は半開きになっています。それは、閉じる必要がないので口輪筋が発達していないためと、口よりも相対的に舌が大きい(この方が乳が飲みやすい)せいで、舌が口唇の外にウロチョ口出がちになるからです。こうした乳汁だけの栄養から次の段階の離乳食の摂取を開始する5カ月頃までにぜひ必要な事は、哺乳反射の適度の消失と首の据わりです。口から種々の食べ物を食べるためには、哺乳反射の吸啜の働きや咬反射があると上手に食べられませんし首がすわらないとしっかりした飲み込みができません。これらの事を考慮して離乳食へ無理なく移行するようにすべきでしょう。生後2,3カ月頃から頻度の増す指しゃぶりやシーツなめ、その後の玩具なめなどは口の機能の発達
には必要な事です。
GO TOP
2.くちびる食べ 授乳初期
挿し絵は、医師薬出版(株)「食べる機能の障害」より転載
授乳食を与え始めた頃の食べかたの特徴は、スプーンの食物を顔を少し上向きにして口をパクパク勤かしながら、口に取り込む動きです。このとき舌は哺乳のときと同様に、中央部を陥没させながらあごの動きに連動して口が開く時に外へ出てきます。その後次第に舌が外に出る事が少なくなり、口をパクパク動かしながらも下唇を内側にいれて唇を閉しる事を覚え、次第にドロドロの離乳食が飲み込めるようになります。最初は下唇を上に上げてなんとか閉じますが、やがて上唇を下に下げて口唇を閉じる事を学習します。これにより、大人と同じ様に圧力をかけて(重力の力でなく)ごくんと飲み込む事ができるようになっていきます。さらに、口唇は閉じる事によって口中の食べ物や舌の位置の敏感なセンサーになるらしく、それによって口中の平衡感覚がキャッチされ、デリケートな咀嚼運動をコントロールしているようです。このように、口唇が閉じられるようになる事は、大変重要な意味を持っています。口唇を閉じる食べ方は、人間以外にはあまり見かけない進化した能率の良い食べ方です。この飲み込みの機能を練習しながら獲得していくのが、離乳初期の食機能の最人の発達です。飲み込み機能を獲得途上のこの時期は、まだ食べ物を口腔内に貯留させて唾液と混ぜる事がほとんど出来ません。ですから、与える食べ物は唾液とまざったようなドロドロ状態の調理形態なのです。
GO TOP
3.舌食べ 授乳中期
挿し絵は、医師薬出版(株)「食べる機能の障害」より転載
飲み込み方が上手になると、スプーンから食べ物を口に取り込む時にあごがパクパク何度も動く事がなくなり、ひとくちで取り込めるようになり、食べているときに舌が出てくる事がなくなってきます。このような食べ方ができれば次は離乳中期です。この頃、多くの子どもは、下の前歯がはえ始め、口の容積が広がり始めます。そして口のなかで動く舌の範囲が広がり、口を閉したままでも種々の動きができる形態的な準備ができてきます。唇に力が入るようになると、それまでの富土山型のぼってりした口唇ではなく、うすい口唇となりますし、食べている時の口唇は左右水平に伸び縮みするようになります。離乳中期に獲得していく摂食機能は、唇を使って食べ物を口に取り込む機能と、食べ物を舌で押し漬して飲み込む機能です。この時期に発達する機能で特に大切なのは口の中に取り込んだ食ベ物を舌の上に乗せ、上顎に押し付け食べ物のかたまりをつぶす機能です。これまでは、スプーンから与えられた食べ物をそのまま形を変えずに丸飲みしていただけなのですが、この時期に「つぶす」事を覚えるのです。そして食べ物をつぶすと、つぶされた食べ物は唾液と混ざり易く、飲み込みもスムーズにいく事も覚えていきます。「舌咀嚼」とでも呼びたいようなこの機能は成人になってからも、水分の多い軟性食品(プリンやトウフ)を食べるときの食べ方です。種々の障害を持っている子どもの中にときどき見られる、食べ物をまったく噛まずに丸飲みにしてしまうような食べ方は、この時期の機能が発達途上と考えられます。そこで歯で咬ませる事より、まず口唇を閉じて「舌で噛む」事を教え、機能発達をうながすようにしていくと食べ方が少しずつ改善されます。
GO TOP
4.歯ぐき食べ・・・・・離乳後期
挿し絵は、医師薬出版(株)「食べる機能の障害」より転載
舌を使って食べ物を押しつぶしたり、上手に「ゴックン」と飲み込みができるようになると、次の機能は「咀嚼]です。この時期は、まだ奥歯がはえていません。奥の歯ぐきで食べ物をつぶす動きが、この時期の咀嚼です。特に下あごが食べ物を歯ぐきでつぶす時、左右にずれるように動きますので、口角の動きが非常に活発になり、まわりの表情筋を協調させて動かします。表情が急に豊になるのもこの頃からです。口唇の運動もさらに上手になり、口をとがらせてチューするなど、自由に動かす事ができるようになります。舌の運動も前後・上下・左右と自由になりますので初めて発語が可能となってきます。咀嚼の基礎がでさる事が、言語のスタートとなる訳です。この時期で注意したい事は、咀嚼ができるようになるとはいえ、まだまだ幼い動きであり、またそれほど硬くない歯ぐきでつぷすのですから、硬い食べ物がどんどん食べられる訳は無いという事です。咀嚼機能の発達を促そうと、むやみに硬い食べ物を与えますと、咀嚼できないために丸飲みしてしまったり、また食べ物の形が大きすぎたり、一度にたくさん口にいれてしまうと舌が上手に動けなくなり、逆に機能発達を阻止してしまう事にもなりかねません。子どもの食べ方を注意深くみて、適当な食物を適当量ずつ与えたいものです。
GO TOP
5.歯食べ・・・・・授乳完了から一歳前半
離乳を完了してお誕生日を迎える頃までには、多くの子どもは上下の前歯がはえて、いよいよ歯を使って食べる練習が始まります。手との協調も上手になり、手でつかんだ少し大きな食べ物でも唇にはさみながら口にくわえ、前歯でモグモグとかじり取っていきます。まだ大きさや量の調節が上手にできないので、口に入った食べ物を出したり、その一部をまた口に入れたりしながら、自分の処理できる量と口に取り込む量とを練習しながら覚えていきます。特に手につかんだ食物を協調して口に運んで取り込む一連の機能の発達期は周りを汚しますが、練習して覚えているのだからと暖かく見守りたいものです。障害のためにスプーンなどを持つ事ができず、すべて介助者から食べ物を与えられていて上手に食べられない人の中には、この時期に覚える口への取り込み量と処理量の協調を学んでおらず、しかも介助者が処理できる量を無視して、どんどん口に入れたりするために、機能が発揮できず発達が遅れてしまった場合もあります。一口で食べられる量は人によって若干異なります。この時期にゆったりと、少し汚しながら自らの量を学んでいくのです。
GO TOP
6.咀嚼の練習(乳歯食べ)・・・・・一歳半〜三歳
一歳も半ばを過ぎる頃には奥歯がはえてきて、いよいよ食べ物をすりつぶす準備が整ってきます。硬い食べ物でも臼歯で噛んですりつぷして、唾液と混ぜて、そしてつぷれてドロドロになったものから飲み込むという咀嚼機能の練習開始です。しかし、この臼歯で噛んで食べるという機能も、奥歯がはえてさたらすぐ上手にできるようになる訳ではありません。食べ物の種類や調理形態によって硬さの感じも異なりますし、それに温度や味や粘稠性などによって、その感じ方は非常に微妙です。上手に噛むためには、これらに合わせて取り込む量や噛む力や回数を変え、そして頬筋や口輪筋などと強調して「口腔前庭(歯と、ほおや唇との間)に食べ物が落ち込まないようにしながら、連続して咀嚼を行う訳です。ですから上手に咀嚼できるようになるには、かなりの練習期間を必要とします。ダウン症児の場合には他の機能の発達と同様に少し練習期間が長くかかるんだと心にゆとりを持って下さい。特に歯根膜(歯と骨の間にあるクッションのような役目をしながら歯と骨をくっつけている膜)で歯が噛む時に受ける力の強さを感じ、それによて咬筋などの筋肉が噛む力を調節していくと考えられますから、乳歯がはえそろう二歳半から三歳頃までは少なくとも練習期と考えて良いでしょう。三歳頃までは、ただ単に硬い物を与えるように気をつけるのではなく硬さや大きさが異なる食物や、「同じ食べ物でも調理の工夫により、色々な感覚がある事を歯根膜や口腔領域のの筋肉などに教え込んで、それぞれの食物に合わせた、上手な働きがでさるよう練習を重ねるべきでしょう。離乳期が協調されるあまり、離乳が完了すると、何でも上手に食べられると考えられがちですが、離乳期にもまして幼児の前半、三歳くらいまでは摂食機能の発達には大切な時期です。そこで、つい大人と同様と考えがちな幼児期の食べ物や調理の形態に機能発達の視点からの配慮が是非必要でしょう。
| 発達区分 (練習期) |
初期 (口唇摂取〜嚥下練習期) |
中期 (押しつぶし嚥下練習期) |
後期 (咀しゃく練習初期〜咀しゃく練習期) |
完了期 (以後は、咀しゃくの力をつける) |
| 食物形態 | 半流動食 すりつぶし食 |
押しつぶし食 粘稠軟固形食 |
軟固形食 刻み食 |
一口切り食 普通食 |
| 食物の特徴 具体例 |
ドロドロ〜ペースト状 粘り(粘稠性) なめらかさ(粒なし) 水分が多い ヨーグルトなど |
舌で潰せる程度の軟らかさ 粘り(粘稠性) 形がある プリン・卵とうふ・カボチャなど |
歯ぐきで潰せる程度の軟らかさ、大きさを配慮 適度の粘り (ソース・とろみなどで配慮) マグロなどの煮魚 |
歯で噛み砕き、すりつぶせる大きさを配慮 咬み切れない物を除けば、ほぼ普通に食べられる |
GO TOP
7.幼児期における摂食機能の発達
挿し絵は、医師薬出版(株)「食べる機能の障害」より転載
以上のように、咀嚼能力の発達は、必ず「唇食べ」→「舌食べ」→「歯ぐき食べ」→「乳歯食べ」の順序で発達するのです。そしてこれを可能とするためには、それぞれの時期の能力にあった調理形態のもの、すなわちドロドロ食→舌でつぶせるもの→歯ぐきでつぶぜるものと、順をおって学習する事によって可能となるのです。
それができないうちに次の段階に進ませようとすると、その段階で発達はストップして、それ以上に咀嚼能力は身につかなくなってしまいます。もしそこで無理をすれば「丸飲み」の手法を獲得し、以後はそればかりが発達してゆき、矯正しにくくなります。 「歯ぐき食べ」が十分にできるようになれば、その後は硬い物を噛むことにより咀嚼のトレーニングが可能となります。しかし、これができない限りトレーニングは無理で、かえって有害でさえあるのです。
発達の速度は子どもの素質、調理形態のすすめ方・与え方によって著しく左右されます。大切なことはその子に合わせたすすめ方をすることです。
ダウン症児の場合には歯の萌出が遅れることが多いですから、一歳半から二歳頃までを「歯ぐき食べ」の一つのめどとすると良いと思います。
摂食機能の基本は離乳期に獲得されますが、いろいろの食べ物を効率良く上手に食べていくためには、まだまだ獲得していかねばならない機能が数多くあります。そしてこれから後の機能の獲得には主に、周囲の上手に食べる人と一緒に食べることによって、模倣しながら獲得していくことが多くあります。できるだけ家族と一緒に食事していくことが上手に食べられるようになる基本でもあります。摂食機能の発達途上の子ども達(発達が少し遅れて上手に食べられない場合も)は、食べる速度が遅かったり、大きいと嫌がったりすることがあります。
あまり食べ方にこだわるあまり、子どもが食べている間ずっと「良く噛んで」「早く飲みこみなさい」「汚さないように食べなさい」…等と注意ばかりしていると、本来楽しいはずの食事が楽しくなくなり、食べる意欲さえ失いかねません。子どもの発達程度に合わせて、ちょっと気配りしたおいしい食べ物を、楽しい雰囲気で食べさせるのが、発達をうながす最良の方法とも言えそうです。
GO TOP